FHP11 サスペンション開発ばなし
随分前 、UKのサスペンションについて、NISSANに質問した際に、明確な答えが得られず、そのままうやむやになっていたのですが、先日、その記事をご覧になったある方からメールを頂きました。
有り難いことに、その方は、イギリスにてUKのサス開発に携わっておられたという方で、私たちの質問に対し、答えて下さいました。ご本人よりPUKサイトへの掲載の承諾をいただけましたので、以下に、そのメールの内容を記載します。
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このようなホームページがあるのを本日やっと知りました。この中で上記仕様についての質問があるようですので連絡差し上げました。と申しますのも私は92年から4年間NETCに出向し、この車のサスペンションを取りまとめてきたものです。いまでこそ日産を離れておりますが、この 車のサスの開発をしたものです。
さて、この車の足回りについては大きく申し上げますと、フロントはチューニングの み、リアはショックのレイアウト変更とチューニングを行っております。ショックの レイアウトはトランクルームの商品性向上を目的に(この言葉と原価低減に勝る殺し文句は設計者は持ち合わせていませんが)、ショックのアッパーの位置を下げてお り、加えてショックアブソーバーのマウントも専用設計としてあります。ちなみに申 し上げるとこのマウントは専用工具でないとなかなか取り外しが難しくなっておりま す。なお、このショックのレイアウトはワゴン開発時に一応参考とされたようです。
さて、次に日産欧州車の開発について簡単に申しますとベースは日本仕様となってお ります。しかし当然欧州市場に適用するべく、1個1個の部品のチューニングを施し ております。というか同じスペックでも日本製と欧州製では車両としての性能が異な ります。当たり前のようですけどなかなか理解できない点で、日本側に説明するのにいつも窮することでした。チューニングはまずNETCサンダーランドのテストドラ イバーが叩き台になる車両を我々設計と作り、その後に日本の実験部隊と欧州日産の ドライバーとNETCサンダーランドのテストドライバーによる合同部隊が欧州各地 を走り回ってチューニングしていきます。このとき活躍するのがモンローのチューニ ングカーで1日に何仕様ものショックを組んで最適なチューニングを見出していきま す。この辺になると我々設計屋の出番がなくなります。そして仕様ですが、日産のNETC(NTCにもあるはずですが)に問い合わせれば図面に減衰力の仕様がうたわれていますから、一目瞭然なのですが、誰かがストップさせたのでしょう。
(管理人コメント)
確かに、リアの車体へのショックの取り付け位置の高さは、セダンより若干低いようで、純正ショックの長さがセダンのものと異なっていたり、セダン適合の社外ショックなどをそ のまま5ドア車に取り付けたりした場合には、リアの車高は上がってしまうなどの現象は見られます。
私がショックを交換する際に、ディーラーに頼んだのですが、リアのショックが外れにくく、破壊して取り外しました。(もちろん、ディーラーは新品を返してくれました)
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日産の欧州開発拠点であるNETC(ニッサンヨーロピアンテクノロジセンターの略、
ゴーンさんが来てから名前が多分変わったと思いますが)の役割を簡単に説明する
と、基本的には
1.ニッサン欧州向け車の現地仕様の開発、
2.現地仕様車に使用す
る部品の現地生産化
の二つに大きくは分けられます。
特に1については、開発という とかっこいいですが、実際には残念ながらNETC独自に設計する能力はなく(ここ でいう設計とは、例えば、サスペンションのコンプライアンス計算であったり、キャンバ剛性計算であったり、サスペンション設計のイロハです。)、基本的な仕様はす べてNTCが行います。このように書くと何だニッサンはという声が聞こえてきそう ですが、英国に拠点を持つトヨタ、本田はもっと遅れているようです(少なくとのそ の当時は)。じゃNTCはどうやって欧州の仕様を決めるのかというとまずは前回も書きましたが、日本仕様が叩き台となります。これを欧州仕様に変更するわけです が、私の記憶では、ブッシュ類の仕様変更は特にしていないと思います。仕様を一緒にしたからといって車両のコンプライアンス特性が同じになるわけではないのですが、ほぼ傾向は同じになります。スプリングの使用ははっきり覚えていませんが、0.2位は上げていたでしょうか。個人的にはスプリングの特性を固めるならば、スタビのバネ定数を上げる方がすきなのですが。
ショックの減衰力は、前回の通り、最 終的には実車で確認したものがすべてとなります。まあ、音やら耐久性やらが問題に なることがままありますが。 欧州仕様の開発といっても机上ですべてがうまく行くわけはなく、あくまでお客様が 使用する環境での走行確認が証としてあるということかと思います。日本の市場でも 同じですが。 欧州特有の環境(走行環境)としては石畳路(路面に石が埋めこまれている路面、ベ ルギー周辺に多い)とか英国のカントリーロード(単なる田舎道のことですが、片道 1車線の路側帯なしを100KPHで飛ばすのはかなりの根性と腕が必要です)とか 有名なアウトバーン(個人的には日本の高速とさして違わないと思っていますけど) とかあります。あ、一つ特有の条件を思い出しました。欧州はサマーバケーションが 長く、キャンピングカーをひっぱって各地に休み中、移動します。このキャンピング カーを引いたときに車両としての安定性が損なわれないような検討をした記憶があり ます。